アントマン 評論

特殊なスーツを着用することによって身長1.5cmのアントマンに変身するヒーローなのだが、この主人公、今までのマーベル作品で見てきた超人的なヒーローとは違いどれもが普通っぽい。窃盗を働いて服役した主人公は元妻に愛想を尽かされて離縁され、今は愛娘に面会することだけを楽しみにする主人公は哀れだ。社会不適応気味の主人公だが、今まで服役していた理由はブラック企業の鼻をあかすために盗みに入って投獄されるのだけれど、その動機は”弱気を助け強きを挫く”マインドを持った現代の”ロビン・フッド”である。そんな義侠心に溢れる主人公にピム博士はアントマンの候補者に彼を白羽の矢を当てるのだが、小さくなれるだけで最初から超人的な力を持つ訳でもなく、いい具合にフツー感が漂う。マーベル作品の中でも異色のヒーローだ。ストーリーも基調がコメディになっており台詞の端々で笑わせられるポイントがいくつもある。只、物語の鍵となるテーマは重く、”愛するものが危険にさらされた時、自分はその身を挺して守ることが出来るのか?”映画の中でこの決断が2度試されている。言う易きだが行うは難し。普通の人間には難しいが、子を持つ親の気持ちはそんな試練も乗り越える。冴えない男が究極の選択を迫られた時に下す決断が心を震わす。それは誰もの心に”ヒーロー”になるスピリッツが隠されていることに気づかされるのである。
身長1.5cmのアントマンに変身し、様々な種族の蟻を従えて活躍するアントマンは強さよりも微笑ましさを感じさせ、蟻を味方につけるところが、小さな生命にも共感しようと配慮するディズニーらしい方針だ。評者はそんなディズニーのポリシーが大好きなのだが、従来のマーベルファンには生ぬるいと感じるのかも知れない。

人間がアントマンのスーツを着用することで小さくなるのは”ピム粒子”という謎の元素の力で可能になるのだが、アントマンスーツの調整器によって1.5cmの大きさで維持出来るという設定が面白い。この調整器が壊れると縮小に歯止めが掛からなくなり亜原子レベルを超えて無限に小さくなるのである。無限に小さくなるという事はブラックホールと同じ理論が適用されて、無限大の重力が発生するはずなのだが、映画ではその矛盾を巧みに回避している。だが、一方で映画の後半でブラックホール爆弾の実用化に成功していると匂わせる描写があり(建造物が爆縮しているシーンがある)、SF映画よろしくご都合主義的なストーリー感が否めない。ただちょっとそれが顕著ではある。量子力学でいうと永遠に縮小し続けることはブラックホールではお馴染みの時間軸と空間軸が逆転する”事象の地平線”に到達することでもあり、ネタバレはしないので詳しくは触れないが、あの人は事象の地平線で今も生きているのかも知れない。続編が待たれる。

 

★★★★

 

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