アントマン&ワスプ 評論
アントマンと再び手を組んだピム博士のグループと彼の研究所を狙う闇市場の仲買人がいれば、それを横取りしようとする特殊能力を持つ刺客ゴースト一派が彼らを追う。まさに三つ巴の戦いだ。
全体として様々なステークスホルダーが作品の中で活き活きと動き回りテンポが良い。”オフビートな笑い”というのもマイケル・べーニャの滑舌の良いマシンガントークにラップのようなリズム感が全編を貫いているからだ。そのコンテンツが詰まっているリズム感に覆い被さるのが、極小の世界を描いたアントマンなのだ。サイズの大小をテーマにしたSFは多くあり、『巨大生物の島』や『ミクロの決死圏』など枚挙にいとまが無いのだが、このSF映画に宿命のように課されるフレームワークを視覚効果としてごく自然に取り入れているのが本作なのだ。
アリのように小さくなれば、アトラスのような巨人にもなる。その変化がとても自然で視覚効果の違和感を感じさせない。ストーリーに没入できる映像なのだ。
前作では量子の世界について作品の中で考察を深めてきたが、今作でもそれは健在で、アントマンの刺客となる”ゴースト”(ハンナ・ジョン・カメン)の物質をすり抜ける特殊能力は量子力学の”トンネル効果”に着想を得たと推測する。
量子力学のエッセンスを取り入れながらアントマンの世界観を肉付けしているのだが、この作品の核心は”蟻”という小さな生き物をフィーチャーすることで、小さな生き物への共感を涵養できるという意味が非常に大きい。アントマンの核には”一寸の虫にも五分の魂”という、ともすれば軽視しがちな小さい生命にも共感を呼ぶような作りになっているのだ。この教育的効果は大きいと思う。
マーベルシリーズの多くがヒーローの正義感がクローズアップされている一方で、アントマンに通底する思想は”優しさ”なのである。それがアントマンが他のヒーローと違って作品がコメディ基調になっている理由のように思う。
それは時代を反映しているようでもあり、10年前のアイアンマンであれば、ヒーローの使命や正義の意味について肉薄していたが、アントマンでは”優しさ”にシフトしてきている。その傍証として1作目の課題だったワスプの母親を量子空間から救出するのが今作の軸になっている。純然たる悪は今回は登場していない。アベンジャーズ/インフィニティ・ウォーに登場するサノスのような気が重くなるような悪が居ない。それはアントマンが”優しさ”=”善”に重きをおいている作品だからだ。だからマーベルシリーズでもちょっと異色の作品なのである。
★★★★
8月31日(金)全国ロードショー