僕のワンダフル・ライフ 評論
日本では昔、「七生報国」といって何度生まれ変わっても国に報いるというスローガンが氾濫していたので、この3度生まれ変わって主人を慕う犬のエートスがなかなか説得力がある。イーサンという少年に飼われた犬のベイリーが主人の幸せのために7度とまでは言わなくても3度生まれ変わって主人を慕うのである。涙を禁じ得ないストーリーだ。人間と犬の友情をつぶさに描きつつ、飼育放棄などの人間の傲慢さもきっちりと描写されており、犬と人間の現実的な距離感というのも丁寧に表現されている。
只、この作品については動物愛護団体から動物虐待の嫌疑を掛けられて抗議を受けた経緯がある。今回観た映画で知り得た情報なのだが、この作品に登場する犬たちはアニマルシェルター等から引き取った犬で演技のプロフェッショナルではなかったらしい。たぶんそのような理由から起用した犬の指導に行き過ぎがあったのかもしれない。芸術至上主義というのは時に人道から逸れる場合がある。芥川龍之介の『地獄変』という小説があるのだが、かいつまんでいうと、高名な絵師が作品のために愛娘を犠牲にして絵を完成させるというストーリーだ。私はハルストレム監督のポリシーに同様のものを感じた。皮肉なことに芸術というのは様々な犠牲を強いる場合がある。その矛盾は永遠に続くテーマだろう。監督はリアリティのために犬を信じてプロフェッショナルではない犬を起用した。一方でジャングル・ブックははなからCGを選択していた。どちらが正解なのかは分からないけれど、ハルストレム監督は犬を信頼していたのだと思う。だから動物虐待の嫌疑を掛けられたのは彼にとって辛い事だったと思う。
ラッセ・ハルストレム監督の動物観、とくに犬なのだが、西欧的な人間と犬の関係を信じており、犬とは人間に従属せしむるべしものであるというイデオロギーから逸脱はしていない。一般論として犬という種が誕生した理由を考慮してもハルストレム監督の犬への対応は多数派が信じるそれで特に間違っているとはいえない。だが、動物愛護団体は犬と人間の関係が並列で犬は人間と同等の権利を有すると考えているように思える。それには私も同意でそれ故に我が家の猫をスポイルしているのだが、近年の日本人にとっては犬猫を我が子のように思う傾向があるため、この作品で描かれる人間と犬の主従関係に違和感を覚える人もいるのかもしれない。只、ハルストレム監督の犬への愛情は疑いようも無く彼なりに犬を愛しているのだと思う。只、その考え方が動物愛護団体とは少し違っていたことだ。動物愛護団体の批判は結構クリティカルで私個人としてもこの作品を観ることは動物の毛皮を着て歩いているようなある種の罪悪感のようなものを感じていたのだが、それは杞憂で問題の本質は犬との向き合い方の違いであることが分かった。願わくは映画に起用された犬たちがその後快適な余生を過ごしている報告があると観ている側としても心が軽くなると思う。
★★★★☆
2017年9月29日(金)全国ロードショー