ボブという名の猫 幸せのハイタッチ  評論

 

© 2016 STREET CAT FILM DISTRIBUTION LIMITED ALL RIGHTS RESERVED. 
配給:コムストック・グループ

 

 

薬物中毒者が拾った猫と友人に支えられながら薬物依存を克服し、人間の尊厳も取り戻すというお話。
ボブと名付けられた捨て猫を飼うことで弱き者を保護する大人の自覚を持つようになる主人公(ルーク・トレッダウェイ)の心の動きが精緻に描かれ感情移入しやすい。
主人公はストリートミュージシャンをしながら日銭を稼ぐのだが、街角で歌う唄が歌詞曲ともに良く作品をより高みのある存在へと昇華している。
チャーリー・フィンクというシンガーが楽曲を提供しているのだが、ジェームズ・ボーエン役を演じたルーク・トレッダウェイの味のある歌声には及ばなかった。
主人公は路上でストリートミュージシャンとしての仕事をするのだが、観客の一人の中年女性がボブにマフラーをプレゼントしたり、「猫はうまく関係を結べば人間以上の信頼関係になれる」(うろ覚え)と非常に含蓄のある言葉を残して行く。このおばさんは映画の中でちょっとだけしか登場しないのだが、こういったすれ違うだけの人から人生を左右するような智慧を授けられるというシチュエーションに強いリアリティを感じた。
主人公は様々な人と出会い更生の道を歩んで行くのだが、その中で隣人のベティ(ルタ・ゲドミンタス)の存在が光る。彼女は友達以上恋人未満の仲だが、それは二人は恋愛よりも生きる同志として関係が強化されているところにこの作品の真摯さが伝わってくる。この”ボブという名の猫”はメロウな恋愛よりも社会で必死に生きる人たちの切実さをスクリーンに焼き付けた傑作である。

 

★★★★★☆

 

8月26日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開

 

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