イントゥ・ザ・ワイルド 評論

人間が生きる。普通の場合、人間によって創りかえられた環境の中で人は生き、一生を終える。 そこには消毒された環境であって人間本来の生きる意味が希釈されている事実がある。 大自然に身を投じ濃厚な生を貪る主人公なのだが、旅先で交わる人との出会いは淡い水のごとく恬淡としている。 物欲を失い、ただ人間が生きることだけに人生の意味が削ぎ落とされていく過程が詩情溢れる映像で彼の人生を物語っていく。 主人公が好む作家にジャック・ロンドンとソローが挙げられていたがいずれも自然に対して大きな敬意を払った文化人であり、ソローは『森の生活』を著して主人公の放浪を誘うガイドブックとなったようだ。 不仲であった両親への反発から主人公が人間社会に懐疑的なったというのは表層だけしか見ていない。 文明批判のはずが家族の確執へと問題がすり替わっているだけで、背景には本来持つ人間の生の意味に肉薄しようとする主人公の果敢な企みがある。 この映画の凄いところは自然が素晴らしいとか、大地は母と譬えて自然に甘えるようなまだるっこしさに浸るのではなく、むしろ呵責のない現実に命を奪われても最後には人間の生の意味に辿りつき真の人間賛歌を謳う結論が、この映画が凡百にはない人の人生を変えるだけの力を持つ傑作になっている。 自然回帰の思想を忠実に映像で表現した作品として高く評価できる。

 

★★★★★

 

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