家族はつらいよ2 評論
Ⓒ2017「家族はつらいよ2」製作委員会
現在、"大家族"の言葉をあまり聞かなくなって久しいが、平田家は今の時代には珍しい大所帯。コメディの主軸としては核家族が一般的になっている現代の日本ではちょっと意外であり日本社会の現実を反映するよりも山田洋次監督が心に描く理想の家族の形にこだわった結果のように思う。つまり監督は過去の良き時代への郷愁を捨てられないのだ。今日の日本では以前よりも増してジェネレーションギャップが拡大してきており、世代間での孤立感が強くなってきている。でも平田家ではそのギャップをうまく埋めている。主人公である平田周造(橋爪功)は孫と時にけんかをしながらも家族の絆は失っていない。それはなんだかんだ言っても平田家には相手を思いやる心があるからだ。それは山田洋次監督の日本人に対する確信にも似た信頼があるからだ。科学技術が日進月歩のスピードで変化し世代間で共通する話題が希薄になっても尚、日本人を結びつけるエートスがあるのだと山田洋次監督は訴える。
日本の理想的な家庭を描く一方で、むしろ次男夫婦の平田憲子(蒼井優)の母がよりリアリティを伴って観客の情緒に訴えかけている。憲子の母が年老いた憲子の祖母を引き取り古びたアパートで暮らす様子は現実の日本を反映しているようで、親近感と寂寥感が混在した複雑な気持ちで見ていた。
高齢者ドライバーが社会問題になっている昨今においての周造の免許証返納騒動や憲子の母に見舞われる老老介護問題。そして丸田吟平(小林稔侍)の孤立する老人問題を取り入れ物語を深化させながらそれでもなお日本社会に光明を見出そうとする作品に救われる気持ちになった。
悲劇から生まれる喜劇は深い情感を引き出す。悲劇と喜劇は表裏一体で分かち難い人の生き様そのものなのである。
この作品は喜劇としてだけではなく、コミュニケーションのあり方についても問われている。よって社会性のある作品といっても良いだろう。日本人が喪ったものだけを見るのではなく、現代においても喪われない絆や他者を思いやる心などを描く監督の姿勢は今もなお日本人のよき心を掬うようポジティブな感情に満ちている。
映画会社というのは営利目的だけではなく、人の来るべき未来を指し示すようなビジョンも必要で、価値観が多様化する現代においては映画会社も苦戦を強いられているように思う。そんな中で山田洋次監督の撮る作品は日本人の良心をつなぎ止める好作であり、日本の良心の牙城なのである。
★★★★★
2017年5月27日(土) 全国ロードショー