Movie Review-き

メガホンキック・アス

 

社会の不正に憤る 冴えない高校生が通販で買った全身タイツを着込んで夜警を
し始めるのだが、何の護身術も身に付けていない彼は不良に刺されて敢え無く病
院 送りとなる。
この日常的に不良からカツアゲされる主人公の怒りこそが、社会で実践されない
正義への不満なのである。この憤懣が自警という形で噴出する のだが、日本で
は最近話題になったタイガーマスク運動とその動機がダブって見える。
そのどちらもが政治が行う正義だけでは救済しきれない「弱者」がいる事実に義
憤に駆られている点が共通している。
「伊達直人」もキックアスも身分を隠して社会正義を実践しようとしているのは
興味深い。おそらく彼らが警戒している批判とは実名を名乗る ことで売名行為
のレッテルを貼られることなのだろうが、プライバシーを暴かれることによって
一市民としての生活を失うことが一番恐れる理 由なのかも知れない。
福祉も警察力も個人の善意に期待するのはリバタリアン的な発想だ。
なにもかも他者の自由を狭めるもので無い限り本人の自由意思が最大に尊重され
るというのは非常に魅力的な考えなのだが、現実は自分の自由 をある程度制限
しなければ他者の幸福も成り立たない。
この映画ではそういった現実が考慮されていなくて、誰もが自分だけの自由を最
大限に主張している。しかしながら主人公が掲げる「正義」は 最も無力である
のにも拘わらず多くの名も無き市民の声を代表しているように見えた。主人公の
無力な夜警活動をしている間は様々な問題を提 起しているようで興味深かった
のだが、途中から11歳の少女(ヒットガール)が父親(ビッグダディ)と共に
彼に加勢してその超人的な戦闘 技術でマフィアを血祭りに上げるようになった
辺りからストーリーのテーマがぶれてきて、母親の敵を討つ父娘の復讐の話にす
り替わったこと が、良くも悪くもこの映画のエンタメ性に寄与してしまって、
少女が大人を完膚無きまで倒してゆく痛快さに喜びつつも、ストーリーの最初に
有ったテーマ性が感じられなくなって物足りなくも有った。
復讐と社会正義が同列に扱われている点に疑問が有ったのと、その為にクリスト
ファー・ノーラン監督が手掛けた『バットマン』ほど、正義の 問題が一般化さ
れていないのがこの映画の欠点であると思った(『バットマン』では私怨と正義
の矛盾と葛藤が描かれていた)。
とはいえ、この映画はヒットガールの活躍を楽しむものであると割り切ればかな
り楽しめるのは間違いないと思う。

 

★★★★★

 

HOME>>キックアス

Amazonで応援してくださる方はこちらから!