キングスマン 評論

スティーブ・ジョブズを戯画化したIT長者が人間を殺人マシーンに変える道具を作りだし世界を混沌に陥れようとするが、それをキングスマンという謎のスパイ組織が阻止する話。 
物語の中では貴族階級と労働者階級の軋轢も描かれており、貴族階級の支持を集める保守派が選民思想と親和性が高いことを示唆すると共に、サミュエル・L・ジャクソン演じるIT長者もまた選民思想に凝り固まっている。スティーブ・ジョブズをイメージして造形されたキャラクタならば、このIT長者はリベラルなはずなのだが、リベラルであってもこの選民思想に最終的には至ってしまう。上流階級の人間は我先にと安住な道へ行く一方で、大衆もまた、IT長者が無料で配布するSIMカードに群がりうまい汁が吸えたと喜んでいる。この映画では結局どちらの階級の人間であってもバカなのだ。製作者はそういった人間の愚かさへの追及の手を緩めない。 
ここで自分の頭で考え行動するキングスマンの存在が立ち上ってくる。 
キングスマンがクールなのは強いからだけではない。 
彼らは自分の人生の主人であるから格好が良い。 
隷属されず、支配者でもない。 
自分で運命を切り拓いているからこそ、利益の享受に汲々としている人たちの中で一際異彩を放つのである。 
製作者は選民思想を批判しているようだが、それもまた近親憎悪みたいなもので、キングスマンという超人を引き合いに出しているあたり、製作者もまた選民意識の魔手に絡め取られている。 

 

安易なヒロイズムに押し流されるな。 

 

ニーチェ的であるがゆえに、厨二病の人には受けが良いかも。

結局、この作品もまた選民思想というフレームワークの中に収まっていて、その枠を出ない。

アクションシーンは意外性に富み、退屈せず楽しめる。ただし、映画に込められたメッセージはニヒリズムと愚者への痛烈な風刺。映画というものは主人公に感情移入出来るような構造になっているので、キングスマンを軸に構えたストーリーに愚者では無い自分を重ねて自尊心をくすぐられるが、これは地雷であって、愚かな人間を笑う私を第三者が笑うという二重構造になっている。
この映画を心底楽しめた人はその人の精神構造もまた露呈しているのだ。

 

★★★

 

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