鯉のはなシアター 評論

 

 

廃業が目前に迫るピジョン座の復活を焦土の中から立ち上がった広島県民と広島東洋カープに重ね合わせて経済省の役人を名乗る謎の人物が次々と復興案を提示していく。そこが現代でも通じる日本復活のアイディアについても考えさせられる。

広島カープが経営危機から生き残った生存戦略は、経済力が弱まり衰退していく日本にもこんな智略を尽くして生き残った日本人が居るのだと勇気づけられる作品。

1992年にイギリスで出版されたニック・ホーンビィのデビュー作『僕のプレミアライフ』というサッカーファンを描いた小説があるのだが、今作はそれに匹敵するスポーツ&郷土愛に満ちた作品である。
廃墟の中から不死鳥のごとく蘇った広島は不死鳥ではなく平和の使者としての鳩だった。
広島にゆかりのある人達が配役されていて広島県人なら目を細める向きも多いだろう。
カープ存続のために施行された数々の秘策を実践するピジョン座の興行主を広島にゆかりのある高尾六平が好演している。
カープの危機管理能力と焦土と化した広島の復興がオーバーラップしてこの日本でもアイディアを生かししたたかに生き残る術を持っていることを教えてくれる。
広島県民のカープ愛と郷土を誇る気持ちがスクリーンに溢れ出ており、その故郷を愛する心はたぶん広島県民でなくてもきっと気脈が通ずるところがあると思う。
これは広島県という括りから出て、日本という国を愛する心にスケールアウトしているのだ。その共感を拡げる見せ方が上手い。広島の原体験は多くの日本人が共有する風景である。焼け野原になった国土、そしてそれを乗り越える国民、それはどの地域でもあった。みんな必死になってあの時代を生きたという実感をヒロシマを通じて多くの人が想起するのである。ヒロシマは日本復興のロールモデルの一つであった。いつの時代にでも日本には危機が訪れそして必ず日本は乗り越えてきたのである。それを広島カープの活躍に重ねて見せている。

愛国心とはちょっと違う。郷土愛というものだろう。国體という幻想を愛するのでは無い。しっかり地に根ざした自分の故郷を愛するのだ。街に流れる川、山、土地、人、地元の商店街としっかりと実体となっている故郷を愛するのである。その郷土愛の描き方が良く作品から滲み出ている。

たぶんこれから日本は大きく変わっていく。でもヒロシマに代表される郷土愛があれば、どんなに変わったとしても日本の心は喪わない。
日本の軸足をしっかりと確認できる作品だった。


 

★★★★★+

 

2018年12月8日(土)シネ・リーブル池袋 、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場 、イオンシネマ多摩センター

 

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