グレートウォール 評論

配給:
東宝東和 / (C)Universal Studios.

 

カメラマンとしてキャリアをスタートしたチャン・イーモウだが、そのせいか映像では高く評価されるものの監督としてはやや厳しい評価を付けられる場合があるが、今回の『グレートウォール』では人種の違いを乗り越えてお互いを認め合う過程が1時間43分の中に過不足なく描かれ上手く収まっており、ストーリー性もじゅうぶんだ。北京オリンピック開会式で演出を務めたチャン・イーモウのスキルが遺憾無く発揮されたビジュアルで、兵士が整然と行進するマスゲームのノウハウが活かされている一方で、脚本を務めたトニー・ギルロイら厚みのあるシナリオ・ライター群とチャン・イーモウが持つ独自の映像感覚が協働して映像・ストーリーいずれも高い水準の作品に仕上がっている。

リン・メイ司令官(ジン・ティエン)がウィリアム・ガリン(マット・デイモン)に説く“シンレン”(xinren)とはおそらく「信任」の中国語読みで、お互いを信頼する意気を指しているように思う。作品では傭兵として生きたウィリアムと大義に生きるリン・メイとの考え方の違いが物語を牽引するエンジンとして働いていたが、これは視野を広くして見るとヨーロッパVS中国という図式に落とし込めるのだ。
つまるところ、この作品は欧米人と中国人のカルチャーギャップに当初はお互い戸惑うけれども結局は同じ人間であり、多少の考え方の違いはあっても共存していくことは可能であるということを訴えているのである。
そういったヒューマニスティックでリベラルなエッセンスが凝縮された作品なのである。

ゾンビアクション+ファンタジーのような物語が基底にはあるが、目の肥えた映画ファンなら骨太なストーリーにもきっと共感してくれるだろう。
この作品が、ファンダジー色が強い理由は映画の後半で熱気球が登場するのだが、史実では18世紀フランスでモンゴルフィエ兄弟が熱気球の試験飛行に成功したのが最初だった。だが、そもそもモンスターが登場する時点でファンタジーのカテゴリに入るのだから歴史の虚実については細かく言う必要はないだろう。

リン・メイが率いる鶴軍はバンジージャンプの要領でモンスターを強襲する女性だけの軍隊だが、これも映画オリジナルのアイディアだと思うが、これは女性も男性も対等であるという思想をビジュアル的に表現したものだ。

この作品には羅針盤(磁石)、黒色火薬とルネサンス期に考案された三大発明の内の二つが重要な役割で登場する。
熱気球はルネサンス以降の発明ではあるのだが、歴史的に重要な発明であることには違わない。 歴史的なアイテムを効果的に使いストーリーを奥深いものにしているのはやはり脚本が優れているということなのだ。
ウィリアムよりも先に禁軍(中国軍)に囚われたバラード(ウィレム・デフォー)はおおよそ20年にわたり中国要人に仕えてきたが、劇中ではマルコ・ポーロのような役回りであり、この作品がアクション映画のみならず“西欧から見た東洋”を描いた東方見聞録のような異文化交流の面も同時に物語の横糸として描かれている。それによりこの作品が単なるアクション映画では終わらない重層な作品になっている。

 

★★★★★

 

4月14日(金)より全国ロードショー

 

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