Movie Review-く
クイックシルバー
1985年公開のこの映画だが、当時、若かりしローレンス・フィッシュバーンが重要な役で出演していた。禁制品の運び屋を引き受ける彼の役は善と悪の中間で立ち回るトリックスターで、彼が登場している間は映画に躍動感が在った。 主人公は株の仲買で成功を収めていたが、一度に全財産を掏って、底辺と謂われる自転車のメッセンジャーで生計を立てていくのだけれど、彼はメッセンジャーの仕事に株の世界には無い正直さと本来あるべき労働の意味を見出していく。 この作品が優れている点は一見、偏見を持ちがちなものに新しい視点を与えることに成功していることである。エリートから一転、社会の底辺へと落ちるものの、主人公は気に已むことはなく、また、気さくで気取らない仲間が彼を取り巻く。 都会の渋滞する道路でハンディカメラを駆使してメッセンジャーが軽やかに道を走る爽快さを描写することに成功しているし、都会の生命力が感じられる。 この映画に登場する唯一の悪役なのだが、常に自動車を運転しており滅多に降りてこない。 そこには、自動車と自転車を対立させることで、無機質な社会と人間性を対比させているように思えた。 こういった、“エリート”と“底辺”、“無機質な社会”と“人間”を象徴的に扱うことで、この映画に神話的意味合いを持たせることに成功している。 そのようなことからこの作品は普遍性が有り、時を経ても楽しめる映画である。 只、難点を挙げると公開が『フラッシュダンス』と近かったせいか、有名なシーンを模倣した場面が有った。 この映画はエポックメイキングよりも二匹目の泥鰌を狙う作品だったのである。
★★★★