モアナと伝説の海 評論
異文化に敬意を払い綿密な取材と創造力でディズニーはイマジネーション豊かな作品を作り上げた。
圧倒的なストーリーテリング、完璧な音楽、緻密な映像。
作り手の魂が伝わってくる作品である。
異文化をテーマに取り上げ映画化するディズニーの世界戦略が色濃く反映された作品である。ただしこれは使命や責任とアイデンティティの話しなので幼い子供には向いていないと思う。ティーンエイジャーかそれ以上が対象のように感じた。
自分のルーツを誇ること。それをさらに辿れば人類は一つであるということ。
多種多様の人種の人間がこの作品を観て心を動かされるという構造自体が人類は一つなのだという事実を解き明かしている。
ポリネシアを物語の舞台にしたのは、異文化と我々との共通性をあぶり出すためである。
モアナたちと悩みまた心踊らせて冒険したのは我々もまたモアナと同じボイジャー(航海者)の記憶がDNAに刻まれているからである。
現代から約3500年前の青銅器時代に数百キロ離れた土地を往き来した古代人が居た。推定年齢は16〜18歳くらいの女性でその遺体が発見された土地の名前からエクトヴィズガールと呼ばれている。古代人が意外とグローバルな生き方をしていたのは現在では有力な説になっており、モアナがグローバリストだったことはこれがキャラクタ設定の直接の原因だったとは断言出来ないが、おそらく遠因くらいにはなっていたのではないだろうか。
モアナの祖先が航海者だということが判明し、彼らが使用した船が発掘されるのだが、その船には甲板が施されているのである。
“甲板”はヨーロッパで考案されてそれが遠洋航海を可能にした重要な発明なのだが、ポリネシアの人たちが同様に甲板を発明していたのかは分からない。だが、モアナの祖先が持っていた技術をビジュアルとしてすぐに理解できる分かり易い表現だった。
この作品の共同監督であるジョン・マスカーとロン・クレメンツは“私たちの誰もがモアナなのです。”とコメントしているがそれはそうなのだと思う。
だだ、もう一つ背後に隠されたディズニーのメッセージが聞こえるような気がする。
ディズニーの隠しメッセージはこうだと思う。
異文化の人たちと一緒に冒険してワクワクしただろう?
聡明な君ならもう分かるよね?
“我々は一つだ“
後、同時上映の短編『インナー・ワーキング』も良い。
主人公の身体の部位が享楽的な生き方を好むのに、悲観的に考える脳がそれを邪魔するというストーリーで、大人向きの作品だ。
人生は泣いても笑っても一度だけで、刹那的に生きろとは言わないけれど、もうちょっと人生を楽しみましょうよ、という提案が書かれたリーフレットのような作品である。
★★★★★+
2017年3月10日(金)全国ロードショー