ねことじいちゃん 評論

ねことじいちゃん画像

配給:クロックワークス

©2018「ねことじいちゃん」製作委員会

 

ネコがかわいい、というだけではない。種を超えた生き物同志の連帯感がこの作品に横溢している。たんに”ネコがかわいいよねー”という話しでは済ましたくない幸福への追求がこの作品に含まれているのである。飼い主を亡くしたネコの世話を誰がするという話しになった時に、”ネコはみんなで飼えばいい”という台詞が挟まれる。地域ネコと人間社会の関わりかたがこの作品で語られている。
ネコとの共存という思想についてこの作品の背骨になってしっかりと語られているのが本作なのである。
老人を看取るのが仕事といわれた新米の医者であってもこの島に未来を見いだすこの作品に救われる気持ちになったのは言うまでも無い。
ネコと豊かな人生を過ごす一方で、外来者への定住にも次第に寛容さを示すようになる島の住民が、いずれ超高齢化社会をむかえる日本人にとってひとつのロールモデルを提示していると思う。
我々は決して孤独なのでは無い、人間でなくても豊かな人生を共に過ごす友人は居る。それがネコであってもだ。その寛容な心が今の日本には必要なのである。
この作品ではネコと人間の距離感が非常に近い。タマ(ベーコン)の好演が際立っている。志の輔さんとタマとの近接する距離感が映像をより親密で豊かな画になっている。だから見ていてつねに頬が緩みっぱなしなのだ。やはりこれだけネコのリラックスした姿を撮れるのは岩井光昭監督の手腕ならではなのだろうか。
大吉とタマの島で過ごす豊かな時間とともに描かれる、大吉の亡き妻のレシピを完成させるというミッションが横軸になって物語が紡がれていく。
大吉と島で唯一のカフェの女主人・美智子(柴咲コウ)が主宰となる料理教室の料理も目に楽しい。そのレシピの完成に至るまでの四季折々の島の情景や、タマの失踪がストーリーを牽引するが、島に流れるゆったりとした時間とネコたちを見ればそれだけで心がほっこりしてくる。
陽がゆっくりと傾く今の日本において、美智子という来訪者を歓待するストーリーはどこかこれからの日本の姿を暗示しているように思う。
大吉の決断や島民の意思も人口が都市に集中していく日本のまた別の側面を見せてくれている。
その逡巡や郷愁をネコの長閑な姿態とともに余すこと無く映像は伝えている。
変化を受け入れつつ、今ある幸せ、寄り添う友の大切さに気付かせてくれる。
朽ちていく国の中で成熟した社会とは、豊かな人生とは何かを真摯に問い続けているのが本作のように思う。

 

★★★★★

 

2019年2月22日(金)猫の日 全国ロードショー

 

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