ラ・ラ・ランド 評論
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Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.
冬のロサンゼルス。冬でも真昼は30度近い。渋滞する高速道路で突然ドライバーと乗客が飛び降り歌い踊り始める。アップテンポのリズム。曲は『Another Day of Sun』。渋滞のストレスが一変、開放の起爆剤になる絶妙のシークエンス。 これで観る者の心を掴まないわけがない。
ハリウッドには成功を夢見る若者が集まる。幾度となく続く挫折に心を折られて故郷に帰る者もいるのだろう。だが、ハリウッドはそんな若者の夢を吸い込んで大きくなっていく。ロサンゼルスは夢を見られる街なのだ。ミア(エマ・ストーン)とセバスチャン(ライアン・ゴズリング)も夢を抱いてこの街にやってきた二人だった。
そんな喧騒と夢を抱かせる街の様子を監督のデイミアン・チャゼルはうまく掬い取って見せている。高台から見下ろすロサンゼルスの夜景、二人がデートした夜のグリフィス天文台。この天文台のプラネタリウムが映す星空を背景に二人が踊るワルツが幻想的で実に美しい。
女優の卵のミアとジャズピアニストのセバスチャンは、最初はいがみ合っていてもお互いの夢に共感して、そして支え合っていく。
“ジャズは死にかけている”とセバスチャンは嘆く。
ジャズにこだわり店のオーナーのリクエストを無視してジャズを弾き解雇されるセバスチャンはオーナーの解雇通告に執拗に抗弁するが、その食い下がり方が妙に可笑しい。彼は“時代の流れ”という風車に立ち向かうドン・キホーテなのだ。消えゆくジャズを守るために、そして夢の街で成功をつかむために。
女優の卵のミアはオーディションに応募しては落ちている。
ワーナースタジオの前のカフェでバリスタのバイトをしながらチャンスを待っている。
二人は偶然というにはおかしいくらいに何度も出会うのだが、そのシチュエーションは最悪の時に巡り会う。最悪の時に最高のものと巡り会う。皮肉めいていてなんだが真実を突いているようではないだろうか。
この出会いのまどろっこしさが映画の前半を面白くしている。
人生を象徴しているようで共感する人も多いのではないだろうか。
その分彼らの邂逅は儚くそして美しい。
その恋のもろさ、掛け替えのなさを見事な歌で表現している。
ミュージカルを引き立てる極上のストーリーと音楽が揃っている。
アドリブのジャズのように予定調和になっていない結末が現実と地続きのリアリティを呼び起こす。ビタースウィートな結末が、一層に彼らが過ごした時間を輝かせる。
人生とは筋書の無いジャズ(インプロビゼーション)なのだ。
★★★★★
2017年2月24日(金) TOHOシネマズ みゆき座他全国ロードショー
提供:ポニーキャニオン/ギャガ
配給:ギャガ/ポニーキャニオン
監督・脚本:デイミアン・チャゼル『セッション』
出演:ライアン・ゴズリング『ドライヴ』、エマ・ストーン『アメイジング・スパイダーマン』シリーズ、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』、J・K・シモンズ『セッション』