スター・トレック BEYOND 評論
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配給:東和ピクチャーズ
戦争は人類の進化のために貢献してきたと主張する敵と、それを否定するカーク船長。この問いは非常に哲学的でスター・トレックのテーマの根幹となっている。
優れたSFとは未来の話しに生身の人間の理想や葛藤が挿入されているのである。スター・トレックにはそれがある。
スター・トレックが永らく人々に愛され続けているのは、アクションがあるからではない。スター・トレックとは困難なミッションに挑戦し、チームワークとやり遂げる意志の力を発揮して障害を克服する過程が面白いのであってアクションは添え物に過ぎない。世界規模でスター・トレックを”アクション映画”として宣伝しているようだが、ビフテキを作っておきながら客に「どうです、うまい棒みたいな味でしょう?」と言っているようなものだ。宣伝部は映画ファンの知性を信用していない。
スター・トレックは思弁と思索のワークスペースなのだ。
様々な星の生命体と共同してクリティカルミッションに挑戦するのは、この地球で暮らす人間のあるべき姿を提示しているからだ。
カークとスポックは盟友だが、友人ではない。馴れ合いがなく、いくつものミッションで築いた信頼関係がドラマを引き締めている。
だからかっこいい。
前述したようにスター・トレックはSFの皮を纏った哲学と思想の映画だ。
主眼がリーダーシップや平和と戦争について思索することなのか、科学考証が少し甘い。敵が持つ最終兵器の威力について具体的な説明が無くよく解らない。だが、スター・トレックではその得体の知れない感だけで良いのである。
我々が期待するのはエンタープライズ号のクルーの活躍と組織力が堪能できれば満足なのである。ある意味、我々はそれだけを確認しにスター・トレックを観るのである。統率された組織力、組織に貢献する個人の能力、ミッションステートメントに殉ずるクルーの意志の力。
One for all and all for one.
各々がチームのために貢献し、チームは誰一人として見捨てない。
スター・トレックは連携するチームプレーとリーダーシップが魅力なのだ。
これは企業のモチベーションにも大きく寄与するだろう。
これは多くの組織で働く人の規範になるのである。
エンタープライズ号の「Enterprise」とは”企業”の意味もあり、スター・トレックにおけるこの組織は会社のメタファーなのだと思う。
「愛国心を持つなら地球に持て。魂を国家に管理させるな」とジミ・ヘンドリックスは言ったが、愛国心が惑星連邦に帰属するという、理想主義者にとってはユートピアに近い状態だ。愛国者=平和主義者となっているスター・トレックの世界では星間紛争の解決の手段は戦争ではなく外交である。それってどこかの国の憲法に似ているよね?!
我々はスター・トレックを観て未来を回想するという奇妙な体験をするのだ。
スター・トレックの世界は、いまや人類の遂行的命題であって、我々は未来にこの世界の到来を約束しているのである(少なくともファンはそう信じている)。
スター・トレックとは人類が未来で経験するであろうと予測する時間軸が逆転した神話なのである。
注:うまい棒はコストパフォーマンスの良いおやつという認識でおります。僕も好きです。
★★★★★
2016年10月21日(金)全国公開