追憶の森 評論
舞台は富士山麓にある樹海、青木ヶ原。
妻(ナオミ・ワッツ)を失った男、アーサー(マシュー・マコノヒー)は死を決意し、樹海を彷徨う。そこで出会ったのは同じく死に場所を求めて樹海に足を踏み入れたタクミ(渡辺謙)と名乗る中年男性。だが、死の決意が鈍り森を出たいと訴えるタクミにアーサーは道案内を引き受けるのだが、樹海は深く方向感覚を失い2人はさらに森を彷徨うのだった。
作品の構成としては森を脱出するまでのサバイバルを描いたシーンと追想としてアーサーとその妻のすれ違う夫婦生活も描かれている。
この作品のジャンルはスピリチュアル・ミステリーと形容してよいような作品だ。タクミのセリフを注意して聞いていると、後の謎解きの重要な鍵になっている。だが、その重要なキーワードに日本語を解する人であればすぐに解ってしまうようなポイントがあるので、勘の鋭い人であれば中盤くらいでこの物語に隠された謎が解ってしまうのかもしれない。
ではあるのだが、それを差し引いても物語に通底する夫婦愛に心を動かされる人も多いのではないのだろうか。陳腐な言葉ではあるのだが、”愛は永遠”と言いたくなるような作品である。
“スピリチュアル物”となるとポリシーの違いから敬遠する向きもあるかも知れないが、ミステリー仕立てなので、無宗教な人間にも割りかしすんなりと受け入れられるストーリーになっている。この謎が解き明かされた時、“なるほど回復不可能な人生もまた無いのかも知れない”と思わされるのである。
少しタクミの台詞について言及したいのだが、青木ヶ原を煉獄(purgatory?)と呼んでいるシーンがある。煉獄とは洗礼を受けていない新生児や誠実に生きていながら異教徒であった人が行く地獄と天国の中間にあるとされている世界である。個人的に樹海を「煉獄」と喩える発想は優れているように感じた。そしてラストに観る者はこの言葉の真の意味を理解するのである。
そこがまた上手いと思う。
★★★★
2016年4月29日(金)ロードショー